MY FAVORITE MUSIC
あいのうた




数ヶ月だけ一緒に生活をした人がいた。背は高くないけど瞳の大きな女性。
寒い時期だったけど、よく都内を散歩した。
カメラマンだった彼女が仕事を終え、東京駅で待ち合わせた。
食事をしてカラオケボックスに入った。
彼女が「あいのうた」を歌った。
多分映画は一緒じゃなかったと思う。
「スワローテイル」は長い映画でも余り記憶に残らなかった。
ミッキーカーチス演じる彫師がアゲハに
入れ墨を施す場面だけが焼き付いている。

だが、Yen Townが持つ空気は好きだ。
其処は生きてゆくのに大変だけど自由が見える。
そう、アジアや沖縄やゴールデン街と似ている。

彼女の声はチャラの声とよく似ていた。
いやチャラ以上に魅力的に歌って聞かせた。
心地よさに再度リクエストをした。
「いい歌だな」と俺は改めて映画のシーンを思い出そうとした。
でもはやり映画の中身は余り思い出せなかった。

自分の誕生日が近づいた。
その頃、俺の頭の中には別れが浮かんでいた。
「でもね」が口癖だった彼女は部屋でバーボンを飲み続けた。
俺がいても余り役には立たなかったらしい。
自分はいつも女にとっては役立たずなのだ。

別れ話を切り出すと、彼女が言った。
「貴方が心地よくないことは貴方の幸せではない、
貴方が幸せでないことは、私の幸せでもない・・」
俺はその言葉に心を打ち抜かれて頭を下げた。
誕生日は一人で過ごした。彼女の言葉は頭を回り続けていた。
素振りを見せないつもりだったけど、予感していたんだな。
歳は大分離れていたけど、皆俺より大人なのである。
役立たずの俺はそうやって少しづつ大人にしてもらったのだ。


記:2003年6月12日(木)  






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